三溪園通信
原三溪が愛した花
2023.03.06
泥の中から清らかな花を咲かせることから古来聖者に例えられてきた蓮を、原三溪はどの花よりもとりわけ好んだ。
自らの構想で建てた茶室には蓮華院と名を付け生涯愛用した。また、その最期を飾った花も園内の池から切り取られた数本の蓮だった。
現在、園内の三溪記念館では三溪が描いた蓮の絵を5点展示している。
古美術のコレクター、新進芸術家の支援者という顔のほかに、三溪は自ら書画を嗜んだことでも知られる。
蓮は作品の中で多く描いた画題で、人格がにじみ出るようなその絵は、伝手を頼って入手を望んだ実業家もいたほど、当時評判が高いものだった。輪郭線を用いない没骨(もっこつ)という技法で描かれたこの作品は、当時まだ評価されていなかった琳派にいち早く注目しコレクションに加えていた三溪が、俵屋宗達の絵から学んだものといわれている。
園内の蓮池では7月中旬ごろから約1か月にわたって次々に花が楽しめる。
三重塔を背景に咲くその清涼な風情は、夏の暑さをひととき忘れさせてくれる。
原三溪筆「蓮華図」昭和12年
(210508広報よこはまなか区版寄稿)